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 10年に一度の

先週末は横浜のT氏邸に行ってきました
こちらの不手際もあって出直しみたいな形になって申し訳なしです

それで疲れたとは思いませんが、その後久々に長引く風邪をひいてしまいました、まいった、参った
でも10年ぶりに風邪をひいたというタイトルではありません


横浜にはいよいよLPレコードを聞けるようにしたい、とのご要望でプリアンプ(phono-EQ)とGrrard 301 Deccaシステムを納品させていただきました

実は9月に一度届けたのです
その晩にT氏と一緒に聞いた クレムペラー教授のマーラー「大地の歌」  これがすごかった
ここ10年ついぞ聞くことのできなかった、音楽そのものがレコードから抜け出して部屋の中に出現したかのようなプレイバックでした

その後すぐに神経質なDeccaカートリッジの出音に不具合が見つかり、早々の再登場&モノラルシステム用のダブルアーム設置という段取りに相成ったのです

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301用のキャビネットはすべてのプレーヤー中最も種類が多いかもしれません
それぞれ各人の個性や主張があり百花繚乱の如しです
その中にあって、Grrardの技術者と私だけがこのスタイルを唯一の方法と主張しています(・・・なんてな)


そしてdeccaの針を受けてイコライズするにはこれにトドメをさすんだ!ってMrウォーカーと私だけが主張しています
こっちはそうでも無いか

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今回はステレオ用に2ch分を納品
この後、虎視眈々と狙っています、何を?  空席の2ユニット分の何かですね ウヒヒ・・・



まあ、とにかくすごかった
もうこんな体験は生きているうちに何回体験できるか?というレベルの音楽体験、レコードだけど間違いなく「音楽体験」だったのです

お前が作ったんだから自画自賛なんだろう、とか思う人がいるかもしれないけれど、自分でも残念なことに僕はオーディオに関しては誇張も嘘も言わない

もちろん人様の御宅の音を悪く言う必要はない、意味がわからないしそんな必要はどこにもない
しかし、こんな驚愕の体験は10年に一度有るか無いか それほどのことなのです

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改めて、全く改めてオーディオの真髄を教えられた

オーディオってさ

最初に何を買うか、どんな組み合わせにするかがやっぱり一番の問題なんだね

自分のお気に入りのコンポーネントを別々に買い組み合わせても、難しいものだと思い知らされた
正しい道を歩めば、ポンと置いた瞬間から驚異の音楽世界が出現してしまう

でも、考えたら当たり前のことなんだよなあ
開発の段階で私たちの想像もできないような巨額な費用と、英知と時間をかけて「いい音が出るように」作られているんだからその時の音を正確に再現できるならば、素人同然の僕らには何も打つ手がないじゃ無いかと

もう、個人がどんなにジタバタしてもこの世界観には到底達し得ないなと打ちのめされたのです

それほどの、壮大で、深遠で悲哀としかし滋味に満ちたマーラーでした  (僕自身はマーラー苦手なのに)


ただし、ただしです

今出ている音は偉大な先人の血と汗の結晶が出している音であって、T氏の影響が及ぶ範囲は購入の決断と経済的な負担にとどまっています
でもそれこそが到底余人の及ぶところにない大成功の最大の勝因なんですけれどね

1年後の今頃、再び聞かせて頂いた時にこのままのクオリティが保たれているのなら、改めてT氏の偉大な判断とオーディオをマネジメントするその実力に対してその足元にひれ伏す事にしましょう

しかし、それがどれほどの険しい道であるかを誰よりも経験していると勝手に自負している私は、自分がひれ伏す姿を想像しながら楽しみにその時を待っています



その証拠に、自分でもすっかりDeccaシステムを再開しようと色々買い込んでしまいました

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プリもまた買っちゃったー  人生4度目か5度目のQUADです

アホ丸出しですね でもあの音が出るならバカになるしかないか・・・







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趣味の世界感  見栄と競争を取り除いたら何が残る?

少し前のニュースになるが、自由民主党の谷垣前幹事長が趣味のサイクリング中に転倒事故を起こし、頸髄損傷の治療のため幹事長職を辞すると言う重大事になった(もちろん日本国における重大事という意味です)

谷垣氏は若い頃からロードバイクやランドナー(フランス風旅自転車)の熱心な愛好家で今でもフランスの幻の名車サンジェやイタリアのヴィンテージ・ロードレーサーを多数所有されているようです


今回の事故に遭われた当日、議員宿舎からでしょうか颯爽と!とは行かずにフラフラと自転車に乗って出かける谷垣氏の映像は、TVニュースで何度も流されたのでご覧になった方も多いでしょう

誰もが憧れるイタリア製のバリッとしたヴィンテージ・ロードレーサーでしたね、しかし谷垣先生も御年71歳

TVで見た感じではサドルに対してハンドル位置がかなり下がっており、腹筋、背筋の弱い方が乗ると頭が下がりすぎて前荷重過多となり、腕=ハンドル=前輪に体重がかかり過ぎてニュース映像にあったようなフラフラ運転の原因になります

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愛車にまたがり微笑む谷垣先生 、事故当日はさらに前傾が深いように感じました


今回のこの事故に関して、ちょっと考えさせられることがありました
日本にもサイクリング趣味の人が多くいますし自転車の文化は広く根付いていると思いますが、趣味として文化としての成熟度はいかがなものだろうと思うのです





今回の谷垣氏の事故に関して、サイクリングを趣味とする方々の中にこのような意見があるのを見かけました

谷垣さんの事故は自転車のチョイスに問題があるんだ
ただでさえ体力の衰えた人が、性能の劣るヴィンテージ自転車に乗って走れば危険は増す
軽量車両に制動の強い油圧ブレーキを組み合わせていれば助かったのに


その記事を読んで、「ああ、日本人だなあ」と思いました
オーディオでも同じことですが、性能の追求、スピードの追求、走行距離の拡張、連続走行時間の延長・・・etc,etc

しかし70歳を超えた政界の大物に「最新ロードバイク」をお勧めする感覚はどこから来るのだろうか?
自転車にまたがる全ての人にとって、そんなに速く走ることにどれほどの意味があるのでしょうか?



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日本の旅サイクリストたちの尊敬を一身に集める堀越新一さん もう90歳を過ぎている
数年前には毎日自転車に乗り、女性客で溢れるおしゃれなイタリアンに堂々とお一人で入ってパスタを食する日々だった

所有する自転車はアルプスのクイックエース他3台、写真の通り全てハンドルをアップポジションにセットしている
前与党幹事長には失礼だが、趣味の深さが違い存在の爽やかさが、潔さが違う



私自身が自分の好きなオーディオやその他の趣味の時間に求めるのは「そこにだからある世界観」とはっきり思います

茶道の世界観ならすぐにピンときますね
お庭や小径や茶室、その中に存在するお花や茶道具などの小物と行き交う人の服装や交わす言葉や歩き方など
「しつらえ」や人の存在が「茶の湯の世界観」そのものを体現するように構築されています

オーディオであれば自分が音楽(私の場合は主にクラシックの曲)を聞く「世界観」が自分の部屋で実現できていなければ、例えば部屋が乱雑な状態では、いまは無理して音楽なんて聞かなくてもいいや。と思います

だから、横浜に単身赴任していた時代は全くオーディオは触っていませんでした。これも個人の趣味だから他意はないのですが
待機中のケーブルや使っていないアンプやその他の機材が沢山見えるような「男の城」的な部屋や、生活の証が見えるリビングでは真剣に音楽と向き合おうという感情が湧いてこないのです




私たち日本人の作法のお手本が、皇族の方々であるのは2600年間不変のことと思います
その上で上述した追求型の日本の文化論を思うとき、いつも思い返すのは秋篠宮殿下のご趣味についてです

自転車と自動車の違いはありますが
皇族の方々が自動車をお乗りになるときは、まあ普通に考えて国産の車にお乗りになるのが無難でしょう
そこに、あえて自らの御意志と世界観で持って、なおかつ国産車でなくともどこからも異論のない唯一の正解を見せて下さいました

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シャツの柄は私には少々アバンギャルドに過ぎましたが、ヤング・プリンスが私たちに見せてくれた世界観としては
一歩後ろに下がった清楚な紀子さまのお姿も含め理想的なものと思います

どこから見ても憧れの高級車でも最新鋭の高性能車でもないのですが、なんと言いますか実に趣味の良い絵面ですね


やんごとなきお方の生き方はまさに我々のお手本でありますが、スピードや馬力や最新式のコンピューター制御高性能をもってしても手の届かないところにある何か、それも豪華でも華美でもない外見故の奥ゆかしさこそが豊かな生き方なのだと示していただいているように思います

話を戻して与党幹事長といえば、まごう事なき国の中心を支えるお立場です

その方が、蟻の巣のようなヘルメットを被りピッチピチのサイクリングスーツを着て、速さを競う目的で作られたロードレーサーに跨る世界観の趣味をお持ちであるところに若干の違和感が残るのです

今回のように大きな事故で一線を退くのが、谷垣氏のような有能で有力な政治家であれば大変に国益に反する事です
そのようなお立場にある事をもう少し考えていれば、同じ自転車趣味であってもただ豪華なヴィンテージレーサーに乗ってみたい! だけでなくご自身の体力や技術に相応しい自転車との付き合い方があったのではないでしょうか

ニュースでもその点に言及したものを見ていないですし、それどころか「最新のロード車じゃなければ・・」などと言い出す自転車ファンがいる事に「日本自転車文化、未だし」の感を持ちました



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こちらは、昨年英国から譲っていただいた車種のオーナーさんたちによるクラブミーティングのひとコマです
近年、日本でも「ツィードラン」のようにクラシックな装いで自転車に乗る催しを見かけますが、あれはなんと言いますか大学生のサークルが運動資金集めのためにパーティーを開くようなノリで・・・なんとも頂けませんねえ


そういった外見のカッコやさや金の集まる匂いのするパーティーに対して、歴史ある英国式クラブは自転車先進国ならではの文化の深さを感じます

趣味の対象が自身の権力や財力を誇示するためのツールに成り下がっていないし
競争や見栄、意地の張り合いの道具にもなっていない

何に乗っていてもいいが、むしろ自転車の魅力よりも人の魅力が優先されます

ただ好きだから、ここにある
自転車に乗って、何百キロを何時間で走ってやろうとか、時速何キロ出るか挑戦しようという楽しみが一方にあるのはとても健全なことだと思います

しかし他方には、老猫と余生をゆっくり過ごす的な自転車との付き合い方があっても良いはずです

何かと比較して自分が劣っているとか、性能が良いと噂の新しい部品に付け替えるなんてことはしません
誰かと比べて自分もグレードアップしにゃいかん・・・なんて虚無な競争は存在しません


しかるべき人は、相応しい場所(世界)に身を置かなければいけない。ということなんだろうと思います





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Marantz 8B   本当の実力を聞くために

結局、自分ではノータッチでしたが今回の一件でマランツという会社のことを知る機会になりました

米マランツ社は1964年に家電メーカーのスーパーコープに売却され、以降日本のスタンダード工業によって製品開発されることになりますが、これはもう少し前「古き良きアメリカ」時代の話です


創業者ソウル・バーナード・マランツさんは工業デザインと電子技術の経験がある人で、1951年頃知人のためにプリアンプを作った
いわゆるセミプロの自作マニアですね。その機械が仲間内で評判になり400台近い購入希望があって
奥様と二人の手作業では追いつかなくなり1953年に会社として立ち上げたそうです

P・ウォーカー先生やアイクマンくんなどもみんな同じような経緯で起業していますね
本格的家庭用オーディオが今まさに産声をあげた瞬間です

その後の快進撃はよくご存知の通り、シドニー・スミスやセクエラといった名技術者を向かえ入れ名器の数々を生み出します

私の薄い記憶だけで今回ネット検索しても確認が取れなかったのですが、マランツ自身だったかスミスは測定器の仕事もしていたと聞いた記憶があります

今回 8Bのマニュアルを見ていて、そう、これは測定器のマニュアルの書き方だと思ったのです


マニュアルのP5に 「アジャストメント」という項目があり

1、バイアス調整
2、ACバランス調整

の2項目が写真入りで事細かに記載されています

さらにその後には
テストポイント毎の電圧値と抵抗値の標準一覧があって、実に親切なマニュアルになっています
これだけやっておけば、一通り以上の調整ができますので、買ってきたままの状態で使うよりもかなり音の足並みが揃って重心が下がり、そして何よりピントのあった音になるでしょう

今回は片側のchだけでしたが、きちんと調整してからモノラルで聞いてみました
聞き慣れた民生機アンプという印象は霧散し、音像に整いと背景に静寂のあるハイクオリティ・アンプの香りが漂ってきました

楽器の姿がなんとなく霞がかかり、こんもりとした「マリモ」が鳴っているような印象がなくなったのです
やはり8Bはきちんと使いさえすれば素晴らしい名器でした!


いつも申し上げていますが、50年前の真空管時代の名器が眠たくなるような生気のない=優しく真空管らしい音=であったら「名器」と呼ばれ続けるはずがないんです
同時代他メーカーのアンプをはるかに凌駕する音の鳴りっぷりがあったからこそスーパースターとして君臨したんです

マニアの皆さんが、名前さえも聞いたことのないアンプメーカーは星の数ほどあったにもかかわらず、ほんの一握りの機種だけが50年経った今でも高値で取引されているのには、当然の理由があるのです


Marantz8b.jpg


さて、このブログで上記マニュアルのリンク先を張って調整方法などにも少し触れようかと思いましたがやめました

少なくともある程度の精度の(市価1万5千円以上)デジタルテスターとダミーロードとショートピンは必要ですし(テスターも持たずにヴェンテージアンプを使っている環境を想像できないが、下記の理由で使わないほうが良いとも思う。またダミーなしに通電するとアウトトランス断線の原因になる)ちゃんとするなら、オシレーター、ミリバル、ジェネレーターが必要になる

そして、何より心配であったのが

底パネルを外して天地を返した状態で通電し・・・+Bにはこの時点で400v来ている・・・電圧測定や半固定抵抗の調整をすることです
この時に金属のスクリュー・ドライバーやプライヤーズを、手を滑らせてアンプの中に落としてしまうと家中の電源を消失することになります。

もちろんアンプは大きな被害を受けます、そんなリスクを冒してまでするべきことではないと考えました


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400vが走るこの中に手を突っ込む(比喩です)勇気が必要です
電圧は高いですが、200mA程度しか流れないので感電しても「ビク」って程度です
壁コンセントからの200vは契約の50Aとかのままですから「ブヲ」ってなります




結論から申しましょう

球を交換して音が変わった、良くなったと喜ぶのは少し待ってください
球を交換したせいで、回路中の動作条件ppならAC、DCバランス、シングルなら球の動作点が変わるので音が変わるのです、それを喜んでいても仕方がありません

ただし球を変えるたびに上記マニュアル通りに調整をされている人は別です。その人は以下の文を読む必要がありませんが、その様なことができるほどアンプを理解している人は大抵安易に球を変えたりしないものです



仮にきちんと調整された状態(そんなものには中々お目にかかれませんが)で買ったとしたら、球を変えることによってわざわざバランスを崩して、音が変わったと言っているのです
アンプは音が変わることが重要ではないんです

もし、交換する球をお求めになるお金があるのなら、一度信頼の置ける技術者によって調整された状態で聞いてみることです。その後は1年に一度のルーティンにする
それだけで、あなたの家ではどれほど素晴らしい音楽が響くかしれません

ただし、お願いする相手がまた悩ましい問題であります。アンプを設計して自作できる・・・というだけではいけません


長い時間の中で技術は歴史を刻み続けてきたのです
歴史を知り、マランツであればその設計に携わった技術者の思想や組あげる時の「クセ」を知らないと(想像する感性がないと)できる話ではありません

「オリジナル部品でないといい音は出ない」だの「俺がいじったら、もっと音を良くしてやる」なんて人にあなたの大切な、そして歴史的名器を委ねてはいけません
素人の生兵法は古来より固く禁じられるものです、なので私自身も8Bに関しては関与出来ませんでした


まずはその機械を作った人たちが情熱を叩きつけた最高の状態で一度聴いてみてください
雑誌やネット上の評判をはるかに上回る音の世界がそこにはあると思いますよ

変化を求めるならば、その後でもいいじゃないですか?
すでに鬼籍に入ってしまったシドニー・スミスやソウル・B・マランツと違って僕らは生きていてこれからも時間はたっぷりあるんですから

亡き先人の偉大な業績にまず敬意を表してから己の思考を表現するのであれば、礼を失することにはなりますまい



『余談中の余談コーナー』

立川志の輔師匠(北陸地方の生まれ)が29歳という遅咲きで談志師匠に弟子入りした当時のことです
兄弟子(おそらく年少の)に蕎麦屋へ連れて行ってもらいました

お酒を頼むと「お通し」として白菜の漬物が出てきました
志の輔さんは、これまでそうしてきたように何の迷うことなく漬物に醤油をかけて食べようとした所、兄さんにお小言をいただきました

「おまいさん漬物が塩っ辛いか甘いかわからないうちに醤油をかけるんじゃないよ。一口食べてからでも遅くないだろ」

・・・お後がよろしようで








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Marantz 8B Tさんの涙! って泣いてないか、でも泣けるよねえ

さて、件のマランツ8Bは購入したお店に発送して周りの抵抗をもう2、3本交換して無事戻されたそうです

それから半年ほどのち再びTさんから電話がかかってきました。やっぱり暗い声です

「どうしました、大丈夫ですか?」

「それがさ、マランツ8Bの片方のchの音が小さくなって左右のバランスが取れないんだよ」

「左右の球は入れ替えましたよね、ソケットの掃除はしましたか?プリアンプ以前ではないですか?」

「それがさ、8Bにはメーターが付いてるよね、出力管4本のうち1本だけが針が十分に振れないんだよ」

「それは困りましたね、一応見てみますから持ってきてください」

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出力管の脇にある(黒いキャップが被っている)半固定抵抗を調整して右端のメーターの針をメーター内の白いラインに合わせるという作業


まあ、出力管のPiを測ってppのバランスを取るんだよねえ、おそらくカソードで測っているのだからパスコンが抜けたんだろう。くらいの軽い気持ちで待っていました

30分もすると、ちびまる子ちゃんが焦った時に頭から青い線が降りてきているような顔をしたTさんがアンプをかついでやってきました


それでも、随分とのんきなことを言ってきます

「今日はさあ、まだレコード聞きたいからさあ、抵抗とかコンデンサーとか変えればいいんでしょ、早くやってよ」

まあ、見てみますからちょっと待ってください、とNETで落としておいた回路図から見始めた・・・・その瞬間今度はこちらがガーーンとなりました

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なんと、固定バイアスなんです

メーターはバイアス可変によるDCバランスを測るためにあったのです、ほとんど部品がない場所の電圧だぞ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おそらく修理はできないだろうな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今日は無理ですね、あまり好ましくない状態だと思います、せいぜい早くやりますがそれでも2、3日はください。
それと手直しではできないと思いますので正規の修理代が発生しますし、修理不能でお返しする可能性もありますのでご理解ください」

無念というか不服そうな顔でしたが、直ぐに出来ないのは事実は事実なので納得してもらって一旦お帰りいただきました
さてここからはこちらの気分が暗くなる番です、早速原因の特定=犯人探しを始めました

普段はこんなに急がないんだけれど、気が早ってしまうというか嫌な予感を拭いたいからという感じです

まずは関連するであろうCR部品の不具合を個別に確認していきます・・・・予想通り問題は見つかりません、数は少ないのでここまで20分ほど

早速行き詰まりますが、そうも言ってはおられません、気力を振り絞って次の手に移ります
各部電圧を4本の出力管から見た立ち位置で測っていきます

音声回路でも特に問題はありません、ここまでで1時間弱。少し焦りが・・・

PICT4538.jpg

このメモは信号回路で犯人がわからず、B電源の流れを測っていて犯人検挙の瞬間を記録したものです



答えは想像以上に悲劇的なものでした
アウトトランスの1次側のレアショートだったのです

自分の測り間違いじゃないかと何度も何度も確認しました、しかし残念ですがスクリーン=プレート間に導通はありませんでした
いつもより数倍重い携帯を取り上げてTさんに連絡しました



翌日、Tさんは購入したお店に連絡したのですが、部品としてはすぐにはないのでジャンク品が出た際に生きているトランスを探すしかないと言われたそうです
それからどうなったか委細はわかりません、日本にはたくさんの同型機があるでしょうからトランスは出てくると思いますが早く叶うことを祈ってやみません


最初に抵抗が溶断した時にはこちらで修理(の記録)をしていないので、今回のトランスが切れた同じ場所の球が不具合だったのかはもう私にはわかりません

まっとうに考えると真空管アンプは400vレベルのB電源で動いているわけですから、短絡事故の際には重度の損害が生じる可能性が大きいのです
使う人間は常にその覚悟というと大げさですが、もしもの時の安全保障を考えてしかるべきでしょうね


私が長いこと真空管と付き合ってきて思う事です

「なんとなく嫌な気がする、これをやっちゃいけない」という第六感を敏感にするしかこんな恐ろしい器械と付き合う道はないと思います
別の言い方をすると「気配を察する」感性です

前回話題にした「球転がし」を私がしないのは、アンプにとっては「ヤバイ気がする」ってことも大きな要因だと思います
そこんところが鈍感になると、いつの間にか大きな渦に巻き込まれるかもしれないと思うのです

今回は大変な悲劇でしたが、このアンプを初めて見た時に言った

「抵抗で済んで良かったですよ、トランスでもやったら大変でしたね」なんて冗談が本当になってしまったのです

その時の修理を自分でせずに販売店にお願いしていただいたのも「なんとなく近寄りがたい感じ」がしていたのだと思います



次回は、この悲劇を通じて学んだこと

球転がしをする前にやるべきことは山ほどあった!


最終回です






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Marantz 8B と球転がし   大好きなTさん

私の家と同じ市内にTさんという先輩がおられる
この人を私は大好きなんだけれど、今まで出会ったオーディオ好きな人の中でも群を抜いてユニークな方なんです

何がすごいかってその発想力が、私のような凡人には遠く及びもつかない程とてつもないパワーがあるのです
それはもう、30年前に出会ったその日から一言一句発言を全て覚えていますから、いつか「T氏語録1〜7巻」という本を出版して大儲けしようと企んでいるんですが・・・「やめてくれよお」と拒否られているので現在は虎視眈々とチャンスを窺っているところです


さて、そのTさんからある日電話をいただきました
その頃Tさんは長年使っていたマッキントッシュのアンプに加え、マランツの#7と8Bのコンビを導入して随分と楽しんでいるらしい。という話を風の噂に聞いていました

しかし、電話口の向こうからは何やら元気のない声が聞こえてきます

「マランツの8Bなんだけどさ、球を変えたら音が出なくなっちゃったんだ、それに少し焦げ臭い匂いもする」

それは大変ですね、一応見るだけ見ますから持ってきてください、ということで我が家に持ち込まれました

Marantz-model-8-Tube-Amplifier2.jpg
この写真はNET上からいただきました


一目で、出力管のカソードに有る抵抗の溶断とわかりました
多分C電圧測定用の抵抗だったと思います
多分というのは、そのアンプは購入後まだ2ヶ月ほどだったため、販売店へ送ってくださいと話していましたのでその時は回路図を見ていなかった


どうしてこうなったかと話を聞きますと
いわゆる「球転がし」をしたくなった(マッキンの当時からやっていたという)のでe-bayで海外からEL-34を取り寄せて差し替えた途端バリバリっとなった、らしいのです

「kaorinくんも海外から球を買うだろうけれど、こんなことはないの?」と聞かれましたが
私は、アンプに実装する前に真空管試験器で球の良否を測ってからでないと使いません。と答えました
もし不良の場合は、数字的根拠を突きつけて返金を要求する必要もありますしね、外国人相手は骨が折れます

何よりも、球の不良による今回のような「もらい事故」が怖いので、氏素性のわからない球をすぐにアンプに入れてB電源を投入するなんてのは自殺行為だと思っています
オークションにある「測定済み」「整備済」なんてのは夏のお墓で肝試しするより怖い
今回は、抵抗1本で済んで運が良かっただけなんです、トランスでもやっちゃったら泣いても泣ききれませんよ

なんて話をしたところで、一服してコーヒーを飲みながら昔から疑問に思っていたことを聞いてみました



なんで、真空管を変えるんですか?


私の疑問はこうです

そりゃ真空管を変えると音は変わることもあるでしょうね
ブランドや型式が、果てはロットが同じでも個体差はある、さすれば「内部抵抗」が違い、同一条件下で「流れる電流値」も違うのは当たり前、人間の顔がたとえ双子でも違うようにね、当然出てくる音が微妙に変わるのはこれも道理だ


現在自宅で稼働中の2セット(モノラル4台)のアンプはフルメンテしたのち、使用する全ての真空管の個々のバラツキを考慮しアンプに実装した動作状態を汲みして、ステレオ2台ペア毎のゲインや特性を揃えてあります

いざ、真空管を交換する段になったら・・・
手持ちの真空管は全数測定してからストックしてありますから、切れた真空管と測定結果の近い1本を選び出して交換するのですが、それでも微妙な調整に関しては実装の上オーバーオールで調整・確認する必要が生じます
これは大きな労力なのです

以上の通り、真空管が切れる→交換 という事態に対しては大変な恐怖を感じているのです
現状の動作状態が保たれなければ困るし、今の音が変わっては困る という恐怖なのです

それなのに、積極的に球を変えるなんて、一体全体どういう心持ちなんですか?と 問うたわけです

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ある真空管を測定したときのメモです、これは試験器で単体で測っただけ
より大きな問題は回路に実装したときにこの人たちがどのような振る舞いをするかなのです



では、Tさんの答えはどうだったのか?
多くのブログやコミュニティーでも球を変えて音の変化を楽しむという記事を見かけますけれど、Tさん以外の方も同じような意見なのかなあ?などと考えつつ息を飲んで答えを待ちました

しばし、沈黙ののちTさんはこうおっしゃいました

「だってさ、今よりいい音がする球があるかもしれないじゃん。可能性があるならそれを聞いてみたいじゃない!?」

おっと、びっくり、
予想していたより遥かに説得力のある回答で、一瞬身じろぎました

でも、何か、何かひっかるモノがあったのでその後も互いの本音をもう少し探り合いました
それでもやはりTさん揺るぎない精神でさすがです、俺の気持ちは一言で伝えた!それ以上でもそれ以下でもないってくらい堂々としています

きっとそうなんでしょう、
昔からよく言われる、音の変化を楽しむという趣向も含めて、趣味としてはその考え方も一理でしょう
お前はあらゆる可能性を放棄するのか?それで人類に進歩はあるのか?なんて言われたら返す言葉もありません


でも、Tさんごめんなさい、やっぱり凡人の僕にはその深謀遠慮は理解できませんでした
自分がアンプに対してしていること、それによってアンプから得ていることを考えると違うんです、僕はアンプに「いい音」を出してもらいたいんじゃないんです
アンプが意図した通りの動作をして欲しいだけなんです、だからアプローチが異なるのだとわかりました


ただ自分はまだその道の半ばで、足場を固めている途中なのでより良い可能性を追求する段階に至っていないと思っているのです
そこで精一杯考えて、こんなカスカスの意見だけ言わせてもらいました



もし、私がコンサートヴァイオリニストとして生活できるほどの能力があったとして、何らかのご縁があって稀の名品をロシア政府(笑)から無償で貸与していただいたとしましょう

例えばガルネリウス「キャノン」を借りたとして、それを使って演奏活動をしています
そんな私が「たまには他のヴァイオリンを使って違う音を楽しみたい」とか「このキャノンはいい音でないから駒とかをスズキのに変えようかしら」と考えるでしょうか?私には無理ですね

どんなに頑張ったって自分が「キャノン」と伍するだけの演奏をできるとは思えない、精一杯勉強して少しでもその名に恥じないような演奏家になろうとするしかないです
そして、鞍上人なく、鞍下馬なし という状態になりたい、名器ガルネリウスを体の一部のように弾きたいと願うはずです

これは曲の作り手ベートーベンや、ヴェイオリンの作り手ガルネリと演奏者である私との時空を超えた真剣勝負なのです

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現在稼働中の真空管です、これらより「いい音」の出る球があるのかどうか知りませんが、作り手と使い手の時空を超えた真剣勝負をするためには球を変える前にやるべきことは山積みです


対してTさんの「可能性のある限りいい音を聞きたいし、その為には自分ができるだけの手を打ってみたい」という志もよくわかりました

お互いに意見を交換しあっても尚且つ双方の意見が両立するという意味のある時間となりました


しかし・・・

このお話はこれに留まらず、もっともっと大変な事になる続きがありました







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