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まだまだ続いた荷物  次はEQアンプだあ

昨年の秋口から、おそらくは今年の秋ぐらいまで続くのでしょうが
たくさんのフォノEQに携わせていただいています、誠にありがたいことで感謝に耐えません

もともとメーカーでフォノイコライザーとして作られたものならばメンテナンスということになりますが、業務用機器のラインアンプ(電圧増幅装置という意味であって、一般的なプリアンプではありません)には最初からフォノイコライザーが用意されているものはほとんどございませんので、新たにフォノイコライザー回路を組み込む作業になるのです・・・
詳しくは後述しますが、これが一筋縄ではいかない難事業であるのです


劇場や映画館における音源は、生の音を収録したものの拡声であったりフィルムのサウンドトラックでありますから、多くのお客さんを有料で集めてLPレコードを聴かせて・・・といった形態は商売としてありませんので、スピーカーやパワーアンプにはヴィンテージの業務用の逸品は沢山ありますがフォノイコライザーになりますと極端に種類も数も少なくなり天文学的なプライスタグが付いていることもあります


では、キラ星のごとく居並ぶヴィンテージ機器を使ってLPレコードを鑑賞するにはいかなる手段をや、となりますが
そこで、出番となるのがRIAAカーブの付いていないストレートな電圧増幅装置=すなわちラインアンプの出番と相成るわけです
しかし、もともと別の目的で作られたものですから、見事フォノイコライザーとして再生させるには幾つもの高いハードルを越えなければなりません

それでもアメリカのGE社バリレラカートリッジなどは比較的高出力ですから、いわゆるラインアンプからの流用で大きな問題もなく再生できます

しかし、Ortofon EMTが大きなシェアを誇る欧州においては、0.2mv程度の極微細な出力電圧を持つムービングマグネット型カートリッジが主流になりますので、いきおいEQアンプの設計は困難を極めることになるのです



このような制約の中でその用法に適したアンプを選択してくるのですが、今回組みましたのは
ドイツ系のラインアンプの中でも玉座に収まる逸品アンプです

Klangfilm KL-V055e

PICT4260.jpg

EMT139イコライザーアンプやエックミラーのフェーダーなども多数入ってきています


このアンプは私も1セット所有しており以前に記事を書いていますが、今回は昨年Westrexの試作パワーアンプをメンテ依頼頂いた名古屋の好事家の方よりのご依頼分です

手元の資料では1950年代の中ほどの設計で、世界的にサンプルは少ないものだと思います
以前ご紹介した通り、凝りに凝った内容の回路と振るいつきたくなるような絶品のトランスを搭載しており、現代ではこのような「イカれた」アンプは技術的にもコスト的にも間違いなく商品化できないでしょう

DSC01350.jpg

しかしながら、この時代のラインアンプにフォノイコライザーを付与するのは大きな問題があります

・ソケットがリムロック
せめてMTソケットならば、多くの球の中から選択肢があったのでしょうが日本では全く相手にされていないソケットなので、球の種類で逃げようがない

・2球回路なのでゲインが足りない
・出力トランスが優秀でゲインが足りない

これを純粋なイコライザー段のみのアンプに仕立てるならば何も問題がありません
しかしそうなるとこの後に不足するゲインを補うため、別途フラットアンプが必要になります

じゃあいいじゃないか!
一般的なプリアンプのAUX入力に入れれば問題ないだろう!
そんなに簡単にいくもんじゃないのが嬉しい?ところでアウトにはトランスを背負っていますからそのままでは入りませんし
一般的なプリアンプに入れるくらいなら、最初からこのようなスーパークオリティのイコライザーアンプを持ってくる意味がなくなってしまいます

世界的名器の数々を使い込んだ末のオーナーさんが、そこからステップアップするために選んだわけですから


この問題は実は私にとって30年来の課題であったのです
いつかはやってやるぞ!と心に秘めながら有効な解決策を見出すことができずに、一つ二つと買いだめてきたラインアンプの名器たちも、部屋の隅で埃をかぶっていたのでした



転機は昨年の年の瀬も押し迫ったクリスマス後にやってきました

12月26日納期の約束で(別の機種ですが構成の同じアンプを)イコライザーアンプに仕立てるお約束をしてしまったのです
最後の4日間は不眠不休で取り組みました

前日(つまり当日)の朝4時の時点で作業は山のように残っていましたが、なんとか当日の昼前に完成させて納品させていただきました

IMG_1204_convert_20160420163256.jpg

汗と涙の結晶がこれ、1筐体の中にステレオ用、モノラル用のそれぞれの使用カートリジの特性に特化した独立する2種類のトランス+イコライザーアンプのセットと、ライン入力とのセレクターがあり、しかも各々の入力ゲインを個別に調整できるポテンショメーターを備えているという盤石の構成です
内部の写真を見ると今でも目眩がするのであげません

しかも、オリジナルシャーシに対してネジ穴一つどころかいかなる加工や変更もせずに乗り切った思い出のアンプです



あの時の地獄の特訓が活かされて今回は楽できちゃうかなと思ったが、やはりアンプが違うと異なるハードルは存在して同じような頭の絞り方を要求されました

PICT4282.jpg

球数を増やさず、トランスなどの主要パーツを変更せずに、もちろんシャーシに一切の加工なしに組み上げるのは何度やってみても大変でした
今回はオーナーのご希望で、カナディアン・ハードメープルの無垢材を贅沢に使ったキャビネットに入れました

PICT4283.jpg

一般的なXLRやピンプラグ、3P電源ケーブルに対応できるように端子BOXを増設しました
ここでも、オリジナルシャーシへの穴あけなど一切の追加工はしていません

使った部品は最大限ドイツ製のオールドストック品を選んでいます
回路はもちろん当時のオリジナル回路のモディファイです
この回路に出会ったことが成功の全てだと思っています
おかげで、先人や子々孫々に恥ずかしいものを作らずに済みました



オーディオアンプといえども歴史的名器は立派な文化財であり第1級の資料でもあります
こうしたものを扱う全ての人間に伝えたい事は、もう少し尊敬と畏敬の念を持って扱っていただきたい

プラスチックを使ったゴッツイ、金ぴかの端子が無残にも穴を開けて付けられているのを見ると、身体中にピアスやらリングの穴を開けた女の子を想起して大変に悲しい思いになります
そんなチープな装飾品をつけない方が、よほど魅力的なのに、と

古い業務用機械の端子やソケットは独特な形状をしているし、今そのプラグを入手しようと思えば見つからないしあっても高額なのもわかります
しかし、そこに踏み込める覚悟がないならばこうしたものに手を出してはイケナイんだと思っていただきたい

先日、金があるからといって、ピカソの絵なんかは買っていいものじゃない。という記事を書きましたが、想いは同じところにあります


最悪なのは「音をよくするために・・・」という下心で行う魔改造で、これは言語道断
自称最新技術を備えたオーディオ専用=クオリティに劣る部品や劣悪な技術で「ズタズタにされた名器」ほど見ていて虚しいものはありません
何よりも、ただの一つもオリジナルより良い音で鳴っているものを聞いた試しがありません


ちょっと前にスペインの古い教会で、近所のおばあさんがキリスト像のフレスコ画を

X 修復
○ 書き換えてしまう 喜劇がありましたね

fresco-photo.jpg

オーディオの世界では、ありとあらゆるところで大量にこれと同じことが行われています
人類として、歯止めをかけるべき時に来ていると言えましょう

正しくできないなら、手を出すな、これが合言葉ですね





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まだ続く荷物  今度はアンプだ

なんだかこのところ

真空管アンプがブームなんだそうで
もう100年も前からあるものがブームってのも不思議なことですが、ブームというからにはいずれ去って行く流感のようなものでしょうね
はたから眺めてみていても、このまま真空管アンプがオーディオアンプの流派として生き残るようにはとても思えません

最近よく聞くセリフに「変わらないものは伝統とは言えない!常に進化して時代を作ることこそ伝統だ」なんてのがあります
確かに十五代も続く窯元の当主さんならそんな気概も必要だと思いますが
先月からアンプを作ったり、中には使い始めたばかりの人も同じことを言っています。どの立場で言ってんだ?と突っ込み入れたくなりますよね



さてさて、真空管アンプはどのように?本当に?進化しているのでしょうか?
真空管てのは、フィラメントに5Vかけて1A流れる
これが1日8時間動かして20年変わらない・・・ということが利点なんです

その意味するところも知らず、何々の銘柄の球を持ってきて弁当箱くらいの大きさで作って10万円で売れば、6万円も儲かるぞ・・・ウハウハ
こんなものを真空管アンプの進化だと歓迎されるならば、先がないことは自明ですね


直熱三極管をA級動作させると何が起きるのか?
を、勉強されてからお使いになるとオーディオやアンプの楽しみが限りなく広がってゆくし、パンダのぬいぐるみみたいなアンプ(原因不明の不具合の相談あったが浅学の私には手も足も出ないのでお断りせざるをえない)で苦労することも無くなるかもしれません



今回の荷物は、この世界では高名な(つまり「無線と実験」の世界しか知らない人たちには無名の)ビルダーの方がヴィンテージ専門店の依頼で20年近く前に制作したPX-4sのアンプです

PICT4353.jpg

Irとμの低い球を3kΩ程度のロードで使うこと
入力は50vを無歪で確保すること
ふさわしい整流管を選択すること   してあるのはこれだけです

どこどこのコンデンサは高かっただの、あそこのトランスを何年も探したってなことは誰でもできる
もっとも当たり前のことがもっとも重要でかつ難しい
これを難しいと思わない人が作ったものには手を出さないことです
また、頑張って作ったものも(逆説的ですが)やっぱり手を出してはいけません

難しいことをサラリとできる人だけが優秀なアンプを作ることができましょう

その上で、あえて詳細を見てみるとこの出力トランスはデンマークのJS製
後年再生産された新造品ではなく、オリジナルの品です、これだけでも経済価値は高いですね

現在お受けしている仕事の合間を見て、整備して売りに出す予定にしています
GW明けには間に合わせたいですね





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