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最も印象深い言葉   大先達の教え

今日はこれまでオーディオと戯れてきた中で、最も印象に残っている言葉のお話をしようと思います。

それを最初に見かけたのは今から25年ほど前のことです。
その頃20歳そこそこの自分は、正直申し上げて意味を全く理解できずにおりました。

見かけたのは、ステレオサウンドNo.72 1984年秋号の広告のページです。
その広告を出していた会社は、「上弦」 そうです、伊藤喜多男翁がご活躍されていたお店です。

DSC03049.jpg

スピーカーを選ぶなどとは思い上がりでした。
実はスピーカーの方が選ぶ人を試していたのです


当時使っていたスピーカーは、伊藤翁に影響されていた訳でなく、純粋にドイツ物への憧れから入手の容易なSIEMENSのコンビネーションでしたが、Eurodynスピーカーを輸入したり、ED管でアンプを組まれたりしていた伊藤翁その人に対しても充分な畏敬の念を抱いておりました。

その方が書かれた一文ですから、了解したいとは思ったのですが、如何せん経験が無いことには理解の外だったのです。


しかし、ある体験をキッカケにほんの少しだけ身にしみたような気がしました。

その事とは、自分が使い、そして手元を離れていった2台のEurodynスピーカーとの出会いと別れです。
自分の中では上弦の広告の一文を悟るきっかけがEurodynスピーカーであったことは、全く持って運命としか思えない、見えない糸を感じました。

1台目のEurodynスピーカーは、今に至る中でも出色のパフォーマンスを示しているまさに絶頂期に、大恩ある方に乞われて私の元を去りました。
現在の音が、その時の音にそれほど劣っているとも思いませんが記憶の中の美音にはまったく歯が立ちません。

最高に気に入って使っていたのに、それでも私の元を去って行ったのです。



2台目は全く逆で、遂に一度も満足することなく、結果的に私自身が白旗を揚げて手放したスピーカーでした。
言い訳の仕様の無い、完膚なき敗北だったのです。

同じメーカー、同じ銘柄でありながら2台のスピーカーは、真逆の理由で去って行きました。

優秀なる機械は使用者の想いを通り越して、スピーカー自らの「意思」(と言って良いか?)で、自らの居場所を渡り歩くものではないだろうか。・・・と。
その時、伊藤翁の先の言葉が身に染みたのです。



昔に読んだ本の中に、ガスパロ・ダ・サロが製作し、チェリーニが装飾した通称「悪魔のヴァイオリン」(現在はノルウェーのベルゲン博物館 に収蔵)の話の結びにこうありました。
現物の写真は「こちら」にリンクしておきます。長いページですが、かなり下の方にあります。
物語を読んでからこの写真を見ると、背筋が・・・決して一人では見ないで下さい。(ちょっと本気、HPを管理されている方から写真を借りて貼ってもよいのだけれど、怖くて出来ない)

あらすじ
血塗られた事情の中、そのヴァイオリンは誕生した。
最初の所有者を早々に死に至らしめると、そのヴァイオリンは自らの意思であるかのように、次から次へと生贄を求め人手を渡り歩き、尽くその人生を終わらせていった。
最期の所有者オーレ・ブルの死後、未亡人は今後誰にも弾かせないという条件付きで博物館に寄贈し、現在に至る。

その本を読んだ時は怖くて、ビビリまくりでしたが、その結末で本当に救われました。

「ヴァイオリンが呪われていたのではない。それを手にした多くの人が命を落としたのは事実だが、その人々の人生は山あり谷ありであったことは間違いない。
そうした人生の衰勢がこの特徴的な外見のヴァイオリンにまとわりつき、共に歴史を渡り後世に伝わったのだ。」


つまり、ヴァイオリン(物体)に物語があるのではなく、使った人々の人生そのものが語り継がれた、ということですね。



物には、その物の持つエネルギーがあります。
私は、幸いにして、WE、ALTEC、Klangfilmといった強大なエネルギーを持つ機械達を使うことができました。

私よりもずーと優秀な技術者たちが死ぬほど考え抜いて、国家予算の何%という巨費を投じて作られた品々です。
そんな品を、私が選んで買った、また自分の意志で手放したなんて思い上がりも甚だしい事だったのです。

結局、彼らは「変な音出させやがって!おまえんちなんかで、音楽やってられっかよ」と、自ら立ち去って行ったのです。



マニアの友人は「そんなに自分を卑下することないだろう。趣味だから好きな物を使って好きな音を出して何が悪い!」と言われました。

卑下するなんてとんでもない!

私は、この言葉のおかげで、良い音で音楽を聴くために何が必要かを悟ったのです、感謝しかありません。

手前のちっぽけな好みなんかでは決していい音にはならない。

これからは機械が気持ちよく動作できる環境作りに力を注ごう。

自分に能力が無い為に、完全に使いきれていないことを機械に責任転嫁して「この機械はダメだ」と言うのは止そう。
そんなこと言っていたら、機械も愛想をつかして出て行くよな。

そう考えようと、心に決めました。


今日の話題は、過去に一人しか賛同を得ていない話です。
その一人とは、絶好調の初代Eurodynスピーカーを持っていった私の師、その人です。



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コメント
初めて書かせていただきます。他ではなかなか感じることのない共感を得られる珍しいお話に、更新を楽しみにしています。
今回のお話には、身体がジーンとなりました。本当に仰るとおりだと思います。
私もいくつかの古いドイツのスピーカーを楽しんでいますが、当時、国の命運をかけ文字通り命がけ、考え抜かれて製作された装置のポテンシャルには、日々驚かされるばかりです。
良くぞ自分のところに来てくれた、と感謝の毎日です。私自身は知識もないので、詳しい方におすがりして音楽を楽しんでいますが、それにしても本当に不思議な縁だと思っていました。
2010/04/17(土) 11:14 | URL | どこ吹く風 #-[ 編集]
こんばんは、コメントありがとうございます。

育った場所も、音楽やオーディオとの携わり方も異なる方が、どこかにお一人でもご賛同いただける方がいらっしゃるのではと思い、かなりの覚悟で記事を書きました。
コメントや「拍手」を頂いた方々には感謝いたしますと共に、心強く思いました。

今後とも、時間がありましたら、覗いてみて下さい。
2010/04/18(日) 01:17 | URL | kaorin27 #-[ 編集]
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