モノラル録音に臨場感なんかある訳ないだろー! Hさんの思い出

巨匠フルトベングラーの著書を探していたのですが、引越しと度重なる模様替えの荒波にまみれて文庫本1冊の在処を特定するに至りませんでした。

そこで、今日はオーディオの世界でただただ尊敬を寄せる方について書いてみたいと思う。


音の世界は只管パーソナルなもので、立派な方は沢山見えるけれど趣味趣向を言い出すと手放しでリスペクト出来る人というのは存外と少ないものだ。

そんな中で、今日お話しする「Hさん」は数少ない憧れの人になります。
勿論、マスコミに登場するお立場ではなく、お読み頂くみなさんは基本的にご存知ないので私の一方的な話にお付き合い頂くことになり恐縮です。
しかし、Hさんは30年以上前に一度だけ専門誌の記事に載られたことがありますから、それを転記してお読み頂こうと思います。



昨日、定位や音場感について
これは人間がどうこうするものでは無くて、演奏を収録するとイヤでもオウでも付いてくるものだ。
私たち聞き手は、出されたものを黙って聴くだけ。
ただし、ステレオ収録のソフトとマルチモノラルのソフトは別に考える必要がある。

と書きました。

ここで、我が家で一番音場感を強く感じるソフトをご紹介します。

DSC03561.jpg
英HMV D.B.6618 THOMAS Mignon より  Giuseppe Di Stefano
あたしゃあ、やばいほどのMignon好きです。きっとこのお天道さんの下には同じ想いの人がいるよねえー


そうです、78回転のSPレコードです。 トーゼンですがモノラルです。
また、コイツはおかしな事言ってんなあ。と、思われたかもしれません。

私だって最初に聴いたときは信じれなかった。(メタボパパさんにはSPの1曲目に聴いて頂きました)
でもですね、昨日お話した「時間差による位相差」が理解できれば難しいことではないのです。

たとえマイク1本でも、声の直接音と、四方の壁、床、そして天井に反射して帰る音はわずかな時間差でマイクに到達します。
蓄音器の50cmほどの開口部の奥に、収録会場の大きさを見事にイメージさせてくれる音なのです。

それでいて、本物のテナー歌手の声エネルギーたるや・・・・
胸をエグルことLPレコードやCDの比ではありません。 圧倒的なエネルギーを放出します。DSC03557.jpg
周波数特性やS/N比といったパラメータで推し量るとチコンキの音なんて良い音のハズがありません。
しかし、そのリアルな臨場感、聴いているときの恍惚感は、2チャンネルステレオの遠く及ぶ処ではありません。

まして、モノラルを重ねたマルチチャンネルでは、5.1chが100.1chになろうと根本的にこの世界には近づくことはできません。これも音の善し悪しは別にして、マルチモノラルの多チャンネルには「時間差による位相差」が含まれていないためです。




さてそして、H氏です。

私が、ステファーノのSPで腰を抜かした事を30年も前に指摘されておりました。
全く恐れ入るとしか申し上げられません。

私の邪推を入れてはいけませんので、記事の最後の部分をそのまま揚げます。
なんか昨夜、深夜までかかって捻りハチマキで記事を書いたのに、あっさり同じようなことを言われていたのですね。
最初からこれを写せばよかったのかしら。゚(゚´Д`゚)゚


前文略

LPになってステレオになったんだから、たしかに音がある意味では良くなったことは事実だ。
けれど、マイクをたくさん使って楽器に密着し、ミキシングしちゃってから、またトラックダウンとかいうのかい、音を組立ててディスクが出来上がるから、もとの迫力ある音がどこかへいってしまうんでしょうね。

一時期前のモノーラルのLPの方がものによると生々しい音がするんだな。

僕の考え方が間違っているかもしれないが、何だか一般の安ステレオにマッチするような音に媚びて録音されているような気がしてならないんだ。
もっとも商売だから売れない物を造るバカはいないけれど、本当の好きなヤツだけしか買わないものを造ったところで売れるのは知れたもんだからね。
これはレコードに限ったことではなくてどんなものにも通じる話ですがね。

中略

よい音を追求するのとステレオフォニックというジャンルは全然別のものらしいね。
聴いて興味があるということはよい音と関係があるようで、実はないんだな。

ステレオフォニックに聴こえるということは大切な条件だが、モノフォニックよりいい音だということとは別だと思う。
それが本当の意味のステレオでなく、いかにもステレオであるぞよ、という風に聴こえたらそれは本当のステレオではないような気がしますよ。
大体どの楽器がどこで鳴っているかなどと思いながら聴くことがおかしい。
そうあらねばならぬことに戸惑いを感じますね。

ステレオになったらステレオでなくてはいけないと観念してしまって聴く癖がついて、それが本当の音から遠ざかってどうだステレオであるぞ、という音を出しているんじゃないかな。
ナマを聴いている時は奥行は感じるが、あんなに間口は広く感じないでしょ。
あんな風に楽器が平面に並んじゃいない、ことに安物は一列横隊に楽器が並んでしまうんだ。

ピアニストが自ら弾いている音をそのままその場で聴くのじゃあるまいし、指揮台で指揮者が聴いている音を聴いたって仕方あるまい。

音楽は客席で聴くもんですよね。

音源の中に潜り込んで聴く、つまり楽器に耳をつけて聴くなんていう形は、もう音楽ではない。
音の再現の実験をするような音をレコードに入れて聴いたって僕たちにとってなんの足しになるものではなし、自分の耳をおかしくしてしまう結果になるだけだと思いますよ。

音は離れて聴くもの。
お医者さんが聴診するんじゃあるまいし、そんな聴き方をするから、そしてそんなのが流行るから妙な音がする機械が増えるんだと思うんだ。

近視の人が壁画を見るような場合は、その壁画の美的価値が解らないで、壁のマテリアルを調べてしまう結果になってしまう、という。
つまり、全然違った形で判断してしまうんです。

科学する心ならいいが、少なくとも音楽は芸術なんです。
壁画は離れて全体を見るものだし、音楽は楽器を聴くには違いないが、その楽器が唄いだす、表現する音を聴くものですよね。
   了





ご自分のスピーカーを「実演と電蓄の真ん中くらいの音がする」とおっしゃっていました。

今の私の家は大した音はしていませんが、来客があってステレオレコードをかけているときに

「これはモノのレコードですか?」と問われた時などは

Hさんから「お前のうちも多少は聴けるようになったか?」と言われているような気がして、それを励みにしています。





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コメント
素晴らしい解説 関心至極!

これで起承転結できたようですが、しかしなんでこんなことまで解説せねばいけないの?
と思ってしまう今日この頃。

技術はどんどん地に堕ち、音楽をきちっと表現できる機材は減ってきちゃいましたね。

大多数がフレミングの法則で成り立つ世界。(ionやのCondenserやのもありますが)
1930~50年代の技術レベルを取り戻すことは不可能なんでしょうかしら?
2011/05/26(木) 12:38 | URL | mambo #n9Bk/wZI[ 編集]
mamboさんこんにちは、コメントありがとうございます。

そうですね、一つのことに膨大なエネルギー(お金と根性かな)で深みに突っ込んだ人は
オーディオは結局、フレミングの法則とLCRの共振だけじゃんと、シンプルな考えに至るのに対して

オシャレにしなやかに楽しむ人は
組み合わせの妙。とか、チューニングの達人だ。激変だ。なんてマジカルで深遠な趣味と
考えるようですね。

>なんでこんなことまで解説せねばいけないの? と思ってしまう今日この頃。

わたしが二十歳頃に、先達に教えて頂いたことを今でも大変感謝しています。
このブログは若い人向けのつもりで書いている面もあるんです。
一人でも何かを考えるキッカケになって貰えればと願っています。

2011/05/26(木) 16:51 | URL | kaorin27 #-[ 編集]
私,音場感を語る資格などないですが,ふだんスピーカーの前で聴くことは滅多になくだいたい壁の反射で聴いています.「すべての音楽ソースはモノラルで一向に構わない」と思っておりますが大っぴらに語ることはありません.

70年代後半,フュージョンを含むちょっとしたジャズブームがあったのですが国内でのジャズ録音現場のリポートを雑誌で見てあきれました.各プレーヤーがガラスのブースに入っておりヘッドホンで他のプレーヤーの出す音を聴きながら演奏しているのです.エンジニアはこれが最良の方法と信じてやっていたのでしょうか?

しかし考えてみると現場のエンジニアとしては,よほどの大家でない限りその時代に主流である(または先進的であるとされる)方法を取るしかないのではないかと.ライブハウスみたいな場所に演奏者を並べ,少し離れてナグラ一台とワンポイント・マイクで録ったら・・・次から仕事は来ないでしょう.

私は映画製作の現場を知っていますが,プロの集団でありながら必ずしも最高の結果,最高の効率を目指して仕事が進んでいくわけではないのですね.プロならプロらしい仕事をしないとならないのです.録音の現場にも似たようなことがあるのかも.
2011/05/26(木) 21:34 | URL | auf #3eyVfeeo[ 編集]
aufさん、こんばんは。

私はJazzには全く不明ですが、個々のプレーヤーの腕っこきを競うような曲想でしたら
モノラルの方が相応しい場面も沢山あろうかと思います。
クラシックでは、楽器同士の掛け合いの時に楽器の場所まで計算されていることもあるので
ステレオの恩恵はより多く受けることがあるのではないかと思います。

収録に関しては、あまりおおっぴらには出来ない大人の事情で決まることが多いようですが。
現場の人は出来るだけ良いものを作ろうとするのは当然だと思います、しかし沢山の要因が
重なって全てが納得の出来るものばかりでは無いこともまた事実かもしれません。

一般的には、コスト、客の好み、楽曲や再生装置への理解不足・・・などが原因かと。

ワンポイントで出来るかどうかは、(他の手法もおなじですが)売れるかどうかですね。
基本的には販売数が少なくても経営の成り立つマイナーレーベルになろうかと。
逆にマイナーでしたら、それを「売り」に出来るかもしれませんので。
2011/05/26(木) 23:57 | URL | kaorin27 #-[ 編集]
こんばんは

あのSPの音は衝撃的で、今でも耳に残っています。
音場感というより、部屋そのもの、いやいやそこ
に流れる時間まで、変える音だと思います。
決して若くはありませんが、色々な面で勉強にな
ります。
今後とも迷えるブタに色々教えてください。
2011/05/27(金) 00:28 | URL | メタボパパ #-[ 編集]
こんにちは。

おやまー、何たることを・・・メタボ対策の必要は私も一緒ですが・・・(笑)

趣味に限らず、生きることはインスピレーション(想い)と決意(行動)の積み重ね
だとすれば、持っている人は教わる必要がないし、分らない人に教える術は無いですよね。
何らかの体験から本人自身で気付く以外には。

だから、メタボパパさんが教わるモノは何もないはずです、と思いますよ。
2011/05/27(金) 12:53 | URL | kaorin27 #-[ 編集]
T様

コメントありがとうございました。
先ほど、メールに返信しました、ご一読ください。

今後ともよろしくお願い致します。
2011/05/27(金) 12:55 | URL | kaorin27 #-[ 編集]
こんばんは

教えていただきたかったことは、
>オーディオは結局、フレミングの法則とLCRの共振だけじゃんと、シンプルな考えに至るのに...
のフレミングの法則はまだしも、LCRの意味が分からず(抵抗とかそういうことですか?)、何れブログで教えていただきたいなぁ~と思ったのです。
2011/05/27(金) 23:36 | URL | メタボパパ #-[ 編集]
こんばんは、そっちですか・・・
昨夜のこともその通りですし、より重要なんですが。

で、LCRはコイル(鉄心入はチョークとかトランス、スピーカーやカートリッジもこれの応用)、コンデンサー、抵抗のことと取り敢えず捉えて良いかと。
ある日マイクからスピーカーまで全部の回路図を見渡してもこれしか付いてないじゃん!って思ったのですね。あとは真空管とターンテーブルとアーム。ほんとにこれだけ。
しかも、オームの法則とフレミングの法則があれば90%くらいきっちり計算通りに動いてんじゃん。と。

そう思ったら、オーディオの機械を言うに事欠いて、擬人的な性格付けしたり、音色がどうのと言ってることがバッカじゃなかろうかと、僕は思ったのです。(人によって至り方は違うかもしれません)

専門的なことは文献を読んでもらうのが良いと思います。私の知識なんか自分が不自由しないだけの半端モノですから。
ただし、いくら電気的知識が豊かになっても「シンプルな考えに至るか」は全く別の話で、知識豊富な技術屋さんは逆に至らないかも、賢さが邪魔をして・・・
で、結局昨日の「インスピレーション」へ話は戻るわけです。メデタシメデタシ・・・・とほほ

えーい、言葉にするのは無理ですがな、また、お会いしたときにでも続きをしましょう。
2011/05/28(土) 01:02 | URL | kaorin27 #-[ 編集]
おはようございます。

昔、広島に居た頃に初めて生オケを聴ける機会が有って
開園時間が過ぎていたので・・・駄目!って言われるかと
思いきや・・・連れて行ってくれた人が「顔」が効くのか!?(^_-)
入らせて頂いて・・・演奏中なのでこれが終わってから
初めてフル・オーケストラを見ました
映画とかでは結構目にしていましたが、それが目の前に(^_-)
ただね!コントラバスが一生懸命弾いているのも判るし
トライアングルをクルクル打ち鳴らして居るのも判りますが
耳には・・・ヴァイオリン、ビオラ+金管楽器の音しか入って来ない
でも、欠落した音は無いんですよね!
其の時は当然椅子は無くて立ち見(聴き)!でしたが
足はガクガク震えていましたね(^_-)

それから、この方にはパイプオルガンの音まで聴かせて頂きましたよ

今のシステムは其の雰囲気を最大限出してくれるように
組みましたがナカナカ思うようにはいかない物ですね(^_-)-☆
2011/05/29(日) 10:37 | URL | altum #VQ8ezY4k[ 編集]
altumさん、おはようございます。
コメントありがとうございます。

そーですよねえ、実演ではオケの低音ってそれとわかるような聞こえ方を
する場面は少ないですね。
オーディオ的に言うと「すり抜けていくような軽さ。というより淡さ」
ですから、余計音として耳に残らないように感じました。

「雰囲気を最大限」・・・ホントにおっしゃる通りだと思います。
2011/05/29(日) 12:14 | URL | kaorin27 #-[ 編集]
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